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最高裁判所大法廷 昭和37年(あ)1736号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人Aの弁護人原田武彦の上告趣意について。

論旨は、ひつきよう、通告処分に公訴の時効中断の効力を認める国税犯則取締法一五条の規定は、憲法三一条及び一四条に違反し、刑事訴訟法の大原則を破壊するものであるから、その効力は否定されるべきであるというにある。

しかし、国税犯則取締法による犯則事件にあつては、税務署長等のなす告発が訴訟条件とされており、告発のない事件については、検察官は有効に公訴を提起することができない。また、税務署長等が告発をなすには、その前提として、国税犯則取締法による通告処分をすることが原則的に要求されており、しかも、犯則者が通告処分を履行したときは、同一事件につき公訴を提起されることがなくなり、通告処分の不履行をまつてはじめて告発をなし得るのが原則とされている。右のとおり、通告処分が如何なる結果に終るかによつて公訴権の発動が左右されることになるので、国税犯則取締法一五条が通告処分に公訴時効中断の効力を認め、もつて検祭官の公訴の維持に支障なからしめることにしているのは、あながち不合理ということができない。

殊に実際的見地からいつても、公訴時効の完成の直前に発覚した犯則事件について、通告処分に時効中断の効力が認められないときは、通告処分の二〇日の履行期間内又はその不履行に基づき告発の手続のとられるまでの間に公訴時効が完成する場合を生じ、検察官の公訴提起を不可能にし、犯則者を不当に利することとなり、納税に関する秩序を保持することができない。また、通告処分は、ただ一回限りで時効中断が繰り返されるということもない。このような特殊性に鑑みれば、国税犯則取締法一五条は、不合理不平等な定めをしたものとは到底いえない。

なお、現行刑事訴訟法が旧刑事訴訟法と異なり公訴時効停止の制度のみを認め、時効中断の制度をとらなかつたことは所論のとおりであるが、公訴時効中断の制度は、公訴時効制度そのものの本質に照らし、容認できないものではなく、時効停止の制度をとるか、時効中断の制度をとるかは、立法政策の問題てあるから、現行刑事訴訟法が、一般的には時効中断の制度をとらなかつたからといつて、国税犯則取締法一五条の効力を否定することができないことはいうまでもない。

従つて、同法同条が憲法三一条、、一四条に違背しないことは明らかであり、所論は、ひつきよう、独自の見解というほかなく、採用することができない。

よつて、刑訴四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 横田喜三郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 奥野健一 裁判官 石坂修一 裁判官 山田作之助 裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 横田正俊 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 長部謹吾 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 柏原語六 裁判官 田中二郎 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田 誠)

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